熱病

そういえば雨が降っていたのだった。雨あがりのバス停は寒い。頭の中に何かが引っ掛かっている。
中央線の吊り革にぶらさがっていたら座席で誰かがウップと吐いた。突っ伏していて男か女かわからない。隣りの婦人にゲロかかって連れの女が何度も謝っていた。視界の隅でティッシュを何枚も何枚も使っていた。婦人は許した。たぶん心から。俺だったら許せるときと、許せないときがあるかも。ご機嫌よいときばかりじゃないから。
今夜も荻窪で歌ってきた。救いがないわけじゃないが、ありふれた夜だった。俺はもっと急がなくてはならない。ためらってはいけない。ニール・キャサディよりも速く行かなければならない。この世とあの世の境界線を自転車に乗って。止まれば倒れる、チェーン焼き切れるまで。