俺歌論Ⅰ

楽しいときは「楽しいな」とか言わんよな。
おまえが楽しんでるかどうか、ちょっと気にしすぎとったよ。
どーでもいい、とは思わんし、
後で楽しいなと思うためにやることは何もないんやけど。


で、何から話そうか。
ところで、おまえは誰?
知らーん、とか言って終わりにするのも、
つまらーん、とか思うけえ、もうちょっと話すわ。


☆☆


ある時おまえは、殺してやる、と言い、
ある時おまえは泣いて、行かないで、と言った。
おまえをひとくくりにするんやないんよ、
その瞬間、俺にとっておまえはおまえで、名前もないんよ。


昔、二人称として最も高い敬意をもって用いられた言葉やからとかやなくて、
俺が誰かと向き合ったら、俺にとっては、おまえはおまえなんよ。
そんときは名前はいらんし、ちゃんでも、くんでも、呼び捨てでも何でもええ。
おまえにとって、俺がおまえなんやったら、それでええ。


☆☆


俺はおまえに向かって歌うんやから、その一瞬はおまえしかおらん。
俺のおまえのおまえがあいつで、あいつのおまえが誰かで、
誰かのおまえが俺やったりする瞬間に、歌が歌になる。
俺ができるのは、おまえに向かって歌うことだけで、
あいつや誰かがおって、歌になるんやな。
やけど、おまえに向かって歌えるのは俺しかおらんから、
俺は歌うど。